行政書士とAIについて

平成29年10月5日、日経ビジネスイノベーションフォーラム「AI時代を勝ち抜くための次の一手」を聞いてきました。

今回のAIブームは第3次らしいです。毎回、ブームが来ては冬の時代が来るということを繰り返してきました。AI(=人工知能)というのはその定義が難しいです。そもそも人間の思考がどのようになされているかが解明されていないのだから、なにをもって「人工知能」と言えるかなんて誰も確実に言えませんね。大体、AIブームが来ると「人間っぽい」ものはすべて「AI搭載!」とうたいます。その定義はチューリングテストと中国人の部屋という有名な思考実験で深い考察ができると思います(https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AItopics3.html)。今回第3次でさえ、結局本当にAIなのか?という商品が多いです。具体的には、なにか会話をしながら飼い主のことを覚えていく“っぽい”犬のぬいぐるみ、きっと名前だけ覚えてあとは適当なことを言っています。複数の人を“見つけてるっぽい”エアコン、う~んアルゴリズムで処理できそう。昔で言うと、“ファジー”という決まりきった動きでない“なんとなく”ができるということが人間“っぽい”というのもありました。その裏はすべて決まりきった「アルゴリズム」で入力によって結果が固定化されるというものばかりでした。
今回のAIブームはなぜこんなにも盛り上がってるか、というとそれはやはり「囲碁の世界一のプレーヤーにアルファ碁が勝った」からでしょう。そして、将棋の佐藤天彦名人にもポナンザは勝ってしまいました。我々一般人からすると、囲碁の世界チャンピオンや将棋の名人は人類の中でもかなりトップクラスの頭脳を持っている雲の上の人たちです。そして、囲碁や将棋の奥深さはやったことない人でもなんとなく想像できるでしょう。プロは何十手も先まで読んでプレイしているのですから。その人がコンピュータに負けたのです。単純な四則演算や、式の決まっている計算であればなんとなくコンピュータの方が強いのは納得できますが、囲碁や将棋のような“複雑な”ゲームで“人間がコンピュータがコンピュータに負け”ると、それが簡略化され、「複雑なことでも人間よりコンピュータの方がすごい」とイメージが独り歩きします。しかし、囲碁や将棋というものを冷静に分析してみましょう。入力は極めてシンプル。縦何番目、横何番目に何の駒を置く、それだけ。誤解のしようがありません。二歩(にふ)など素人にはよくわからないルールがありますが、そんなものはコンピュータはAIでなくとも一度教えれば決してミスしません。そして、答えも極めてシンプル。囲碁は自分の陣地(マス目)が多ければ勝ち、将棋は王を取れば勝ち、取られなければ決して負けない。誤解のしようがありません。あのマス目の中には、確かに無限に思えるほどのバリエーションがありますが、しょせんそのルールの中の話です。決して途中でネコが駒を取って行ったりはしません。もし、取っていったとしてもコンピュータには関係ありません。それが関係あるとしたら、「その取られた駒がなにかを検知して、同じ駒を“どこかから”用意して、盤の上の駒を元通りに物理的に並べなおす」という動作です。それは現存するロボットには決してできません。なぜならば“どこかから”その桂馬なら桂馬の駒を探してくるのは人間の助けなしにはきっとできないだろうことは想像できるだろうだからです。将棋専用AIはそういう例外はケアしなくていいからです。つまり、強固なルールと完全に守られた活動範囲の中で活動しているということです。我々人間社会ってそんなに固定化されたゲームの中のようなルールになっていますかね?
様々な入力をもとに学習しているからと言って、それがAIかというとそこは微妙なところです。その学習手法自体がアルゴリズムで確定されているかどうかというところです。しかし、今はきっと学習していればAIと言っていい雰囲気があります。ただ、その入力がどの程度複雑なところまで認識できるかというところがかなり大事です。
第3次AIブームでは、ディープラーニングと強化学習という技術が閾値を超えて目に見える段階になったところがとても大きいということでした。その中でも、今回は「機械が目を手に入れた」というのが最大の革命です。今までコンピュータは画像認識はほとんど使い物になりませんでした。しかし、それがディープラーニングという手法で実現できるようになりました。人間の画像誤認率は5%くらいですが、google画像認識の誤認率は3%くらいになっているようです。たとえばgoogleの猫(http://zellij.hatenablog.com/entry/20130608/p1)などがかなり衝撃的な出来事としてよく取り上げられます。入力は猫の画像1000万枚です。その中の「この2つあって周りが白くて中が黒丸なのが目だよ、中央にあって三角で黒っぽいのが鼻だよ」などというヒントはなしです。画像が入力ということはすなわち、カメラを通して現実を人間がなんの加工もせずにそのままコンピュータへの入力とすることができるのです。これは今までなかったことです。もちろん、ビデオカメラの中で「動くものを検知する」というようなものはあったでしょう。しかし、「その動くものがなにか」までは判別できませんでした。
今まで、工場の製造ラインのロボットは「目が見えない前提」で設置及びプログラミングされていました。とても簡単に言うと「知らされていない様々な大きさ・形状のものが混ざっているもののなかから、あるものをつかむ」ということはできなかったということです。そんなことは人間だったら3歳児でも「このブロックの中から黄色い三角のブロック見つけて取って」というのは簡単にできるでしょう。それがロボットは今までできなかったのです。工場の製造ラインはベルトコンベアに正確なタイミングと位置で流れてくるから作業ができるのです。まったくルールがない状態で流れてきたり、様々な形状や大きさや種類のものが流れてきたらもうお手上げです。でも、今はディープラーニングによってそのものを「見て判別」することができるようになりました。
これをカンブリア爆発となぞらえることがあるようです。カンブリア紀の生物は、すべて目を持っていなく、ぶつかったらよけるとか、ぶつかったら捕まえて食べるなどしていたようです。そこに三葉虫という目で光を感知するという生物が誕生しました。すると、離れたところから相手を補足でき、よけたり捕まえることができるようになりました。これは、全員が目隠ししている中で、一人だけ目を開けて鬼ごっこをやっているようなものです。目が見えれば王様ですよね。それで三葉虫は爆発的に増えたそうです。しかし、そうすると他の生物も目を備えて逃げるようになり、今までになかった生存のための行動様態が生まれることになったということです。
工場の中ではコンピュータやロボットがもう何十年も前から自動化を実現してきました。工場の中では、部品の位置は完全にコントロールできたからです。しかし、農業ではほとんど発展してきませんでした。トマトを収穫するにもトマトがどこにあるのかロボットは見分けがつきません。米などは一気に収穫できますが、あれは根こそぎ取ればいいからです。トマトやリンゴ、ナシなどは根こそぎ取ったら来年実ができません。しかし、ロボットは目を手に入れました。だからこれからは農業分野にロボットがどんどん入り込んでくるでしょう。しかし、「トマトを見分けられる」という能力はAIというのにふさわしいでしょうか?AIとは言わなそうですね。しかし、それは技術的には明らかに囲碁トップを倒したのと同じディープラーニングによっているのです。これでわかるように技術ベースと直感でAIと思うかどうかはまったく別物なのです。
猫の話に戻ります。コンピュータは1000万枚のいろいろな写真を見たのでは、なにが猫かを学べません。1000万枚の猫の写真を見たから、その中のなにかしらの共通することから猫というものを学習しました。(数学的に言うと、線形非線形関数による最小二乗法による近似により、多数の係数を見つけるイメージだと言っていました。)その中に10枚でもタヌキや犬の写真が入っていたら、データが悪く、正確に猫を判別できるようにはなりません。「良いデータ」が必要なのです。だからAIにディープラーニングさせるためには、「正確で大量の多様性を持つデータ」を「人間が選別して」与える必要があるのです。なぜならばネットで探せる写真の中には猫の写真がたくさんありますが、その中から、大量の猫の写真を探すのは、猫を学んだAIがいなければ探すことはできません。しかし、猫を学んだAIがない段階では、猫を学んだAIは当然ながらいません。人間の目で集めるしかないのです。だから、AIにディープラーニングさせるためには、人間が正確で大量の多様性を持つデータを集められる対象でなければならないのです。しかも、その“正確”というのは明確に定義できるものでなければならないわけです。たとえば「おいしいもの」の画像を集めるのは難しいでしょう。なぜならば人によって嗜好が異なるからです。逆に「トマト」の画像はたぶん幼稚園でもたくさん集められるでしょう。
今、工場で使われるために訓練されたAIは、多品種のものを、物理的に見分け、その領域を正確に把握することはできるようになりました。他の物体との領域を判別するのものコンピュータにとってはとても難易度の高いものでしたが可能となりました。しかし、「これはA-15という型番のネジだよ」というのは人間が教えてあげなければいけません、それも大量に。
AIを学習させるためには、ある特定のものを専門としたものしか今のところ訓練することはできないようです。要するに「人間のような汎用性が強い」AIは今のところ存在しません。ためしに、LINEとかのAIで会話してくれるものを探して話してみてください。Siriでもよいです。基本的にはまったく話は通じないし、役にも立ちませんよね。ただ、そこでも大きく今回進化したのは自然言語処理、すなわち自由な文章でもその意味を分解・解読できるようになったことです。今まではプログラムで与えた文章の選択肢の1つを選んで会話する、たとえば自動応答システムで、「請求金額に関わるお問合せは3を押してください」的な、コンピュータ側がスタートでした。しかし、今は生きている人間が自分の言葉で質問でき、それをなんとなく解読して、それらしい回答や問い合わせ先を返してくれます。音声認識もものすごく発達してきたので、「耳を手に入れた」ということも言えるでしょう。
「目を持った機械」はモノづくりとものすごく相性が良いです。
経理の世界にもAIのようなものが実際入り込んでいますが、あれは入力の数がものすごく多いのでビッグデータが取りやすいからです。また、そこを省力化することのマーケットがものすごく大きいのでそこに投資をするのです。だって経理はどこの会社でもあるので、日本中、いや世界中がクライアントになりえます。医療現場での画像診断、製薬での新薬可能性物質の自動検索などもマーケットが莫大です。
そのようなビッグデータを用意するのは大変だ、と“教師なし学習”というAIも研究されていますが、今のところは教師あり学習の方が強いらしいです。新聞で見ていると、ある分野で訓練されたAIを、他のあまりデータがない事象の解決にも流用できるようにする技術も研究されてきているようです。たとえば、大地震などはそうそう起きません。決してビッグデータにはなりません。しかし、そういうものもディープラーニングできるようにするといったことです。まだまだ成果は出ていないようですが。
強化学習についても少しだけ触れましょう。アルファ碁は、アルファ碁同士を自動で朝も夜もノンストップ休みなしで戦わせて何万局も、人間が何百回生きても経験できないような経験を短期間でさせてしまいました。誰もコンピュータに経験で勝つことはできない状況です。そうやってある程度まで育てたAIに、ゴールを明確にさせて、あとは自動で数えきれないほどの経験をさせます。そうすると、今まで定石とされていた手でない新たな手を“創出”しはじめているのです。それで実際に勝つ。そして、その手を現実の人間が流用し、新たな差し手が生まれてくる。どんどん多様化しているようです。しかし、そこには一つ制約があります。「明確なゴール」が定義できなければならないからです。インベーダーゲームであれば、点数ですね。対局型ゲームであれば、勝利もしくは相手のパワーゲージがゼロになることです。現実はそんなに単純ではありません。たとえば、「人を安心させるにはどうしたらいい?」のゴールってなんでしょう?
そろそろ結論です。
AIのことは正確に理解してあげなければいけません(かくいう私も正確に理解しているかどうかなんて全然わかりません)。そうしないとせっかくのブームも人間の勝手な過剰な期待によって、それから期待外れになることでまた冬の時代が来てしまいます。そして、過剰に脅威に感じることもありません。たしかに、「20年でなくなる仕事」などがよく書かれています。なんか怖いですよね。しかし、それらは今まで言ったように「目と耳を手に入れたロボットができ、しかも巨大なマーケットがあるところ」です。自動運転なんてまさにそれですよね。工場内のラインで働いている人たちだってそう。スーパーのレジ打ちなんてきっとあと3年以内に全部いなくなります。歴史を見ても技術は必ず進歩します。それについて「けしからん!」と言ったって、言っているその人が淘汰されるだけです。だからAIと仲良くなりましょう。AIを使う側になりましょう。そのためには、AIに対する正確な知識を持つ努力が必要です。AIに関する書籍を読みましょう。毎日のように新聞で書かれている記事を読みましょう。AIチャットアプリと会話してみましょう、どんなにレベルが低いかわかります、とりあえずiphoneのsiriと会話してみましょうか。
そんな中、自分の仕事をWBS(WorkBreakdownStructure)に落としてみましょう。そんな難しいことではありません。今やっていることを細分化するのです。たとえばパソコンを起動してから、メールソフトを立ち上げたりするまでを細分化してみましょう。きっとその中で、待ち時間があります。その待ち時間にただパソコンの起動をボ~っと待っていませんか?その間にできることありませんか?というようにWBSは役立ったりします。それら買う工程の秒数を測って、物理的限度速度を測って、それとの誤差がなんで生じるかを調査して、ムダを削るなど。少し余談になりましたが、そういうことにもよく使います。その中で「目が見えなければできないこと」「耳が聞こえなければできないこと」「小学生でもできること」「マニュアルにできること」などにわかれるはずです。そうするときっと我々行政書士の仕事ってAIが入る旨みってほとんどないということに気付くはずです。なぜならば、ディープラーニングが必要なことなんてやってないからです。書類は情報さえ整理できれば、あとは穴埋めです。 逆に言えば、お客様からの情報整理が難易度が高いということです。これはしばらくはAIにはできない状態が続くでしょう。ただ、ツイッターかfacebookが人の頭の中を言語化する技術を本気で開発しようとしているので数年後はどうなるかわかりません。
要するに行政書士の最もマニュアル化しづらいところはお客さんとの会話の中での情報整理なのです。つまり、お客さんと話して、やりたいことを聞き出し、行きたい方向を一緒に探り、安心してもらう。しかし、そのゴールは明確に定義できない。もしかしたら、はじめに言ってきた許可を取るのではなく、ある契約書を作成すれば済む話なのかも知れません。正解を設定できないということはディープラーニングもできないし、強化学習もできない。お客さんが安心してくれた、それは人間にとってはとてもわかることですが、コンピュータに“安心”の定義は教えらえません。画像であれば表情で認識するのでしょうか。それ自体は可能でしょう。それは例えば占い師のように10分とかで結果を出すものであればよいです。しかし、行政書士の許認可は何か月などかかったりします。その結果を表情で画像認識するというのは弱いでしょうし、表情だけで満足度が判別できるとはふつうは思えません。
だから、人間力を磨いて、お客さんのことを考え、お客さんに安心してもらうというところを我々は追及すればいいのだと思います。その手段として、知識や技術や経験を使えばいいのです。その中にはコンピュータというものも協力な助けとなります。基本的に検索と繰り返しでは、人間はコンピュータにどうやったってかないっこありません。まだまだきっと、検索と繰り返しをすることで効率化できるところは山のようにあると思います。今一度、コンピュータの原始的かつ強力な機能を使い倒してみませんか。そうやって、AIが登場してくれたら仲良く力を借りられる準備をしましょう。行政書士がコンピュータを使う場面では、AIの出る幕はありません。自動化(アルゴリズムと繰り返し)、検索、繰り返しだけでほとんど片が付くはずです。そこにお客さんからの情報整理技術を取り入れれば尚よしです。きっと正式にそのような訓練を受けた人は少ないのではないか、と思います。だって行政書士って文系じゃないですか。それを極めるだけでも今の作業が何十倍、下手したら何百倍も速くなります。働き方改革なんて政府が旗を振らなくたってやってる人はすでにやってるんですし、政府の助けなんて全くいりません(笑)。今すぐ勉強しない選択肢はありませんね。
汎用的で相手の気持ちを察することができるAIが登場するまではまだまだ人間様は安泰です。

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